名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)2326号 判決
原告
甲野一郎
同
甲野花子
右両名訴訟代理人弁護士
竹内浩史
同
竹内平
同
平松清志
同
西尾弘美
被告
乙野次郎
右被告訴訟代理人弁護士
澤健二
同
田中伸明
被告
丙山三郎
右被告訴訟代理人弁護士
増田聖子
同
増田卓司
被告
丁川四郎
右被告訴訟代理人弁護士
大田清則
主文
一 被告乙野次郎、被告丙山三郎、及び被告丁川四郎は、原告甲野一郎に対し、各自金二七四二万二四六七円及びこれに対する平成九年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告乙野次郎、被告丙山三郎、及び被告丁川四郎は、原告甲野花子に対し、各自金二七四二万二四六七円及びこれに対する平成九年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの、その七を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告乙野次郎(以下「被告乙野」という。)、被告丙山三郎(以下「被告丙山」という。)及び被告丁川四郎(以下「被告丁川」という。)は、原告甲野一郎に対し、各自三九一六万七四二七円及びこれに対する平成九年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告乙野、被告丙山、及び被告丁川(以下「被告ら三名」という。)は、原告甲野花子に対し、各自三九一六万七四二七円及びこれに対する平成九年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要
本件は、原告らが被告ら三名に対し、原告らの子である甲野太郎が死亡したことについて、民法七一九条、七〇九条、七一〇条、七一一条に基づき、各自連帯して不法行為による損害賠償を求めた事案である。
一 前提となる事実(後記各証拠で認定するほかは、当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告らは、甲野太郎(昭和五〇年八月生、以下「太郎」という。)の父母であり、太郎の法定相続人である(甲第一号証)。
(二) 被告乙野(鉄筋工、昭和五四年一二月生)、被告丙山(無職、昭和五四年一一月生)、被告丁川(無職、昭和五四年一二月生)は、平成九年一二月三〇日当時、いずれも一八歳であった(甲第四〇ないし四二号証)。
2 太郎に対する加害行為
(一) 平成九年一二月三〇日午後一一時二〇分ころ、名古屋市中区錦<番地略>のゲームセンター「シルクハット名古屋店」(以下「シルクハット」という。)で、被告ら三名を含む名古屋市立北中学校卒業生グループと、太郎、A(昭和五六年一月生)、B(昭和五四年四月生)らのとび職深谷興業に務めるグループが喧嘩を始めたことによって、店内は乱闘騒ぎとなった(甲第二一号証)。
被告乙野が、右乱闘騒ぎの終わりのころ、先輩であるC(左官、昭和五四年三月生、以下「C」という。)及びD(型枠大工、昭和五三年四月生、以下「D」という。)に応援を要請し、右両名及びこれに同行していたE(型枠解体工、昭和五三年五月生、以下「E」という。)がこれに応じた(甲第二三ないし二五号証)。
(二) 同日午後一一時三〇分ころ、名古屋市中区錦<番地略>の三徳ビル北側路上(以下「第一現場」という。別紙図面参照、以下同じ。)で、C、D、Eが太郎の顔面等を殴打した。太郎は隙を見て逃げたため、C、D、E及び被告ら三名ほか数名が、太郎を追いかけた。
(三) 同日午後一一時三五分ころ、EとDが、名古屋市中区栄<番地略>の名古屋証券会館東側歩道上(以下「第二現場」という。)で、太郎に追いついて同人の顔面、頭部等を多数回殴打、足蹴りするなどの暴行を加え、被告ら三名もそれに続いて太郎の顔面、頭部等を多数回殴打、足蹴りするなどの暴行を加えた。
(四) その後同日午後一一時四〇分ころ、名古屋証券会館の南側歩道上(以下「第三現場」という。)で、F(アルバイト店員、昭和五二年三月生、以下「F」という。)が、一人で歩いていた太郎に対し、手拳でその顔面を殴打し、胸倉を掴んで路上に引き倒し、さらに殴打するなどの暴行を加えていたところに、C、E、Dが加わって、更にこもごも、太郎に対し、手拳でその顔面、頭部を多数回殴打し、足蹴りする等の激しい暴行を加えた。
3 太郎の死亡
太郎は、前記各暴行を受け、頭部等の全身打撲擦過傷・鼻骨骨折の傷害を受け、平成九年一二月三〇日午後一一時四八分の一一九番通報により、同日午後一一時五七分現場に到着した救急隊により、同月三一日午前〇時一一分、名古屋市中区三の丸<番地略>の国立名古屋病院に収容されたが、同日午前八時五八分、右病院で死亡した(甲第二一号証)。
なお、太郎は身長一八五センチメートル、体重七八キログラムで、アルコール検査の結果は血液0.8mg/mlであり、右肩から右腕にかけて刺青があった(甲第五五号証)。
4 刑事処分等
(一) 被告乙野は、平成一〇年四月二日、名古屋家裁で、第一ないし第三現場におけるC、Dらとの共謀による太郎に対する傷害致死の非行事実が認定されて中等少年院送致決定を受け、抗告した。名古屋高裁は、同年五月一一日、被告乙野のDらとの共謀は、第二現場で終了しているが、被告乙野の第二現場における暴行と太郎死亡の間に因果関係が認められるとして抗告棄却の決定をした(乙第一、二号証)。
(二) 被告丙山及び被告丁川は、いずれも平成一〇年四月二三日、名古屋家裁で、第二現場における被告乙野らとの共謀による太郎に対する傷害致死の非行事実が認定されて中等少年院送致決定を受けた。ただし、被告丙山については、一般短期処遇勧告がなされた(丙第一号証、丁第一号証)。右各決定で名古屋家裁は、被告ら三名が第二現場を離れたことによって、Dらとの共謀は終了し、他の少年らが太郎に対しなお暴行を加える可能性はなく、その後の第三現場における暴行は、F、Cらの新たな共謀に基づくものであるが、第二現場における被告丙山及び被告丁川のそれぞれの暴行態様、太郎を司法解剖した名古屋市立大学医学部の的場教授(以下「的場医師」という。)による解剖結果等から、被告丙山及び被告丁川の各暴行と太郎の死亡との因果関係を認め、太郎に対する傷害致死の非行事実を認定した。
(三) Fは、平成一〇年一月一日に自首したが、同月二二日傷害致死罪で起訴され、同一一年八月一八日、名古屋地裁で、第三現場におけるC、E、Dらとの同時傷害による太郎に対する外傷性脳幹部損傷による傷害致死罪の成立が認定されて懲役三年の実刑判決を受け、控訴した。なお右名古屋地裁判決は、同一〇年一二月になされた帝京大学医学部の石山教授(以下「石山医師」という。)による鑑定結果を採用して、太郎の死因について、被告ら三名が関与した第二現場における受傷との因果関係を否定し、第三現場における受傷により生じた外傷性脳幹部損傷との因果関係を肯定している(甲第一七、五五、五六号証、丙第二、三号証)。
(四) C、E、Dは、平成一〇年三月、いずれも太郎に対する傷害致死の非行事実が認定されて、特別少年院送致決定を受け、同時に相当期間長期の処遇勧告を受けた(甲第一八号証の一ないし三)。なお、D、E、Dは、いずれも平成八年一〇月、暴力行為等処罰に関する法律違反の犯罪歴がある(甲第二一号証)。
二 争点
1 被告らの不法行為責任の成否
(原告らの主張)
(一) 民法七〇九条の責任
被告ら三名は、第二現場で、無抵抗の太郎に対し、一方的に多数回、頭部又は顔面に極めて強度の暴行を繰り返し執拗に加えていて(甲第四〇ないし四二、四四ないし四六号証)、被告ら三名の右暴行と太郎の死亡の間には因果関係が認められる。したがって、被告ら三名には、民法七〇九条の不法行為責任が成立する。
(二) 共謀等の成立による民法七一九条の責任
(1) 仮に被告ら三名の第二現場での暴行と太郎の死亡との間に因果関係が認められず、第三現場での暴行のみに右因果関係が認められるとしても、前記第二の一2の被告ら三名の加害行為の態様によると、被告ら三名には、第三現場でC、E、Dが太郎に暴行を加えたことにつき、主観的共同ないし共謀が存した。
(2) そして第三現場での暴行は、第二現場での暴行により誘発されたもので、各現場での暴行は、極めて強い連続性を有する。
すなわち、Fは、太郎を探すためシルクハットを出て、途中で出会った知人の石黒裕規(昭和五一年一二月生、以下「石黒」という。)や新美宏明(昭和五一年九月生、以下「新美」という。)から、太郎と思われる長髪の男性が第二現場で暴行を受けていた旨聞き、同所へ向かい、第二現場での暴行を受けて間もない太郎が名古屋証券会館南側路上を歩いているのを発見し、更に暴行を加えた(甲第五六号証)。Fは、被告らが暴行を加えていた第二現場に向かっていたのであり、結果的にFが到着したのは第二現場での暴行の終了直後であったが、もし終了直前であったなら、被告ら三名との共同不法行為の成立は疑う余地がない。
また、Cは、第一現場での暴行後、太郎の姿を見失っていたところ、第二現場での暴行を終えたE、Dと連絡を取って合流し、Dから太郎に暴行を加えた旨を聞いて、太郎に更に暴行を加えようと考え、E及びDに名古屋証券会館付近まで案内させて行き、同会館南側歩道上で太郎がFから暴行を加えられているのを発見して、C、E、Dが更に暴行を加えた。
(3) 被告乙野は、第一現場で、C、D、Eに加勢を頼んだ張本人であるから、右の者らとの間で共謀関係が成立していて、第三現場でのCらの暴行につき主観的共同あるいは民法七一九条二項の教唆による共同不法行為の要件を満たす。
(4) したがって、被告ら三名には、右共謀等に基づき民法七一九条の不法行為責任が成立する。
(三) 客観的関連共同による民法七一九条の責任
(1) 仮に、被告ら三名の行為と太郎の死亡との間に因果関係が認められず、被告ら三名に、C、E、Dの第三現場での暴行に主観的共同ないし共謀が認められないとしても、民法七一九条一項の責任は、行為者間に客観的関連共同があり、右共同行為と結果との間に因果関係があれば成立するのであり、各人の行為と結果との因果関係は不要である。
そして、被告ら三名には、後記のとおり、C、E、Dの第三現場での暴行と客観的関連共同性があるから、第一ないし第三現場全体を通じて、民法七一九条一項に基づく共同不法行為責任が成立する。
(2) 被告らは、第二現場での暴行後に共謀関係は終了したと主張するが、刑事事件で共犯が成立するには共謀が必要とされるのと異なり、民事事件では、共同不法行為が分断されない。
また、被告乙野は、C、Dらに加勢を頼んだ張本人であり、被告丙山及び丁川も、第三現場での暴行に加わったE、Dと共に第二現場で暴行を行っているから、被告ら三名は、第三現場での暴行の実行者たちとの間で客観的関連共同性の要件を満たしている。
(被告らの主張)
(一) 原告らの右主張は争う。
(二) 太郎の死亡は、第三現場の暴行が原因であり、被告ら三名が第二現場で加えた暴行と太郎の死の結果との間に因果関係は存しない。
(三) 被告ら三名の共謀関係は、第二現場で終了していて、被告ら三名は、第三現場での暴行との間に強い客観的関連性がない。
2 損害
(原告らの主張)
(一) 逸失利益
三七六七万四八七四円
太郎は、本件当時満二二歳で、名古屋市熱田区の深谷興業で働いていて、直前三か月間の月収は、次のとおり合計八一万〇八七五円であった。
平成九年一〇月 二八万六〇〇〇円
一一月 二六万〇〇〇〇円
一二月 二六万四八七五円
したがって、満六七歳までを就労可能とし、生活費控除を五〇%とし、ホフマン式で中間利息を控除(新ホフマン係数23.231)して、逸失利益を算定すると、次の計算式のとおり、三七六七万四八七四円となる。
81万0875円/3か月×12か月×23.231×50%
(二) 医療費(国立名古屋病院)
八万一九八〇円
(三) 葬儀費用
三四五万六六五〇円
(四) 太郎本人の慰藉料
二〇〇〇万〇〇〇〇円
(五) 原告両名固有の慰藉料
一〇〇〇万〇〇〇〇円
原告両名それぞれについて五〇〇万円を下らない。
(六) 弁護士費用
七一二万一三五〇円
右(一)ないし(五)の合計七一二一万三五〇四円の一割。
(七) 右(一)ないし(六)の総合計
七八三三万四八五四円
(八) 原告それぞれの損害賠償請求額 各三九一六万七四二七円
右(七)の各二分の一。
(九) そうすると、被告らは、不法行為の損害賠償請求権に基づき各自連帯して、各原告に対し、右三九一六万七四二七円及びこれに対する太郎が死亡した平成九年一二月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(被告らの主張)
原告らの右主張は争う。
3 寄与度により、被告らの民法七一九条の責任は減縮されるか。
(被告らの主張)
(一) 一般の不法行為においては、行為者は自ら原因を与えた限度で責任を負うのが原則であり、共同不法行為の場合もその原則は修正されていない。
民法七一九条一項前段は連帯債務という形で損害賠償責任を強化しただけで、被害者救済のため、行為への関与者の中、具体的な加害者が不明の場合に、右連帯責任を認めたにすぎず、各行為者が自ら責任を与えた原因を超えてまで責任を負わせる規定ではない。したがって、加害者が判明し、かつ、加害者の加害程度が判明する場合、各加害者は自らの行為に関与した限度で責任を負うと解すべきである。加害者間に強い関連共同性がなく、かつ各人の行為と結果との因果関係の不存在を主張立証できた場合は、民法七一九条一項前段の共同不法行為責任を免れることができる。
また、民法七一九条一項後段は、加害者不明の場合でも各人の行為との因果関係を推定する規定があるから、不法行為者が自己の行為と損害の因果関係の不存在を主張立証できれば、因果関係の推定を覆すことができる。
(二) 被告ら三名の行為と太郎死亡の結果との間には、次のとおり、因果関係が認められない。
(1) 太郎の死因の鑑定結果
① 太郎を司法解剖した的場医師は、太郎の死因はくも膜下出血であり、前頭葉・頭頂葉の出血がひどく、下顎部への打撃が脳底部のくも膜下出血の原因で、前額・鼻部・後頭部など顔より上の部分に対する打撃を前頭葉・頭頂葉のくも膜下出血の原因とし、個々の出血及びその原因となった打撃で、太郎の死亡原因となっていないものはないと鑑定する(甲第四三、五五号証、以下「的場鑑定」という。)。
しかし、このことは、第一現場の暴行程度でもくも膜下出血が生じる可能性があるとしているにすぎず、第一現場の暴行でくも膜下出血が生じたとするものではない。また、第二現場での暴行は、死の結果を発生させる程度のものではなく、第二現場における暴行と太郎の死亡との間に、法律上相当因果関係があるとは評価できない。
② Fの刑事第一審裁判において鑑定を行った石山医師は、太郎のくも膜下腔には、ビマン性の出血が存在しているが、その程度は一義的に死因と見なせるほど重篤なものでなく、くも膜下出血によって死亡に至るケースは脳圧迫が生じ、自律中枢が損傷を受けて死亡するプロセスをたどるが、太郎には脳圧迫が認め難いことから、太郎の死因は、外傷性の脳幹部損傷であり、太郎は、特定した一回の頭部や顔面への外力作用によって一気に生じた多発性の脳内挫傷によって即死状態に陥ったものと推定する。そして、石山医師は、致死行為の特定につき、太郎は、一回の暴行によって脳幹部損傷を生じ死亡に至ったと考えられ、太郎のように非常に大きな脳幹部損傷があった場合、即座に意識、呼吸がなくなり、自力で動いたりすることはできず、第三現場で、太郎がFに対し、土下座して謝った時点まで脳幹部損傷は発生していないと鑑定する(丙第二、三号証、以下「石山鑑定」という。)。
③ 的場医師は、太郎の死因がくも膜下出血であり、そのプロセスで脳ヘルニアが生じたと鑑定しているが、石山医師によれば、的場鑑定書の貼付写真を観察しても脳ヘルニアが起こった状態は存在せず、的場鑑定は、鑑定内容のみならず鑑定手法についても法医鑑定の常識から見て杜撰と認められ、信用性は低い。
これに対し、石山医師は、肉眼的所見によって、実際に脳幹部に広範囲にわたる外傷由来の点状出血ないしは挫傷性出血と見られるような変化の存在を客観的に発見していて信用性が高い。
(2) 本件の事実関係
① 第二現場の暴行
第二現場で、Dが、「蹴りたいやつは蹴れ。」と言ったことから、被告ら三名が暴行に加わった。このとき、被告丙山の飛び蹴りはかすった程度で、被告丁川が太郎の頭部右側を足の甲で五、六回蹴った。被告乙野は、脇腹あたりを多くて一〇回程度蹴った。暴行の時間は、概ね五分程度である。第二現場での暴行のうち、顔面に対するものは被告丁川の五、六回と被告丙山の一回だけである。
第二現場での暴行は、既に無抵抗になっていた太郎を複数人で攻撃する悪質な暴行であることは否めないが、死という結果が生じる程度のものとは認められない。
② 第三現場の暴行
Fは、第三現場で、太郎の左頬を手拳で一回殴り、押し倒した後、右頬あたりを四、五回手拳で殴って、左肩あたりを四、五回蹴った。太郎が土下座したところを、その右顔面を蹴り、太郎が倒れたところを右足でその額あたりを蹴りあげた。太郎は、上半身が倒れた際、路面で左頭部を殴打したことも考えられるし、倒れるとすぐ額あたりを蹴りあげる行為は、脳への甚大な衝撃を加えた蓋然性が高い。その後、Fは自転車を持ち上げ太郎に投げつけていて、その興奮の度合いは大きく、それ以前の暴行も、またそれ以後の暴行も供述調書以上の程度に至っていたと想像できる。
C、D、Eのすさまじい暴行があったことは確実である。Cは現場に駆けつけるや否や、走ってきた勢いで太郎の顎を蹴りあげ、勢いを付けて鼻辺りをつま先で蹴り落とし、こもごも左右から思いきり蹴りあった。これらの行為は脳底部への衝撃が大きいものと認められるし、最後には、Fが、太郎の髪をもって二〇センチ位持ち上げ勢いよく地面に二、三回打ちつけている。
第三現場における暴行は、顔面・頭部に集中しているうえ、暴行の過程で太郎は数回地面に倒されており、これによって頭部を打った可能性も高い。
③ 太郎の反応
第二現場での暴行の際、太郎は腕で頭部を防禦する姿勢をとり続けていて、その暴行後は、自力で衣類を直し、歩いて現場を去っている。
これに対し、第三現場の暴行後は、Fが呼びかけても何らの反応をせず、顔面血だらけでいびきのような音をさせながら呼吸していた。
第二現場の暴行の後、太郎は鼻血を出していたが、歩行して第三現場まで45.7メートル移動している。これに対して、第三現場におけるFの暴行の途中では、太郎は、正座して「謝ったがや」などと話していたにもかかわらず、これらの暴行の最後には、太郎の顔がブワッと腫れて目の上から出血し、鼻血が両方の鼻の穴から大量に出て、口からも血が出て唇の回りが真っ赤、両頬も腫れて赤くなり、顔面血だらけの状況となって反応もなくなった。
(3) 以上の事実からすると、シルクハット内での暴行、及び第二現場で被告らの暴行が終了した時点では、いまだ太郎の死因である脳幹部損傷は生じていなかったのであり、被告ら三名の行為と太郎の死との間に因果関係は認められない。
(三) 強い関連共同性の不存在
被告ら三名の共謀関係は、次のとおり、第二現場で終了していて、第三現場での暴行との間に強い関連共同性、主観的共同は認められない。
(1) 被告ら三名は、シルクハット内でも第一現場でも、太郎を特定した暴行又は傷害の共謀を行っていない。
(2) 第二現場での被告らの暴行
被告乙野は、太郎の腰を一〇回くらい蹴り、被告丁川は、太郎の顔面を五、六回、胸の当たりを何回か蹴り、被告丙山は、太郎の顔面を一回、脇腹あたりを五、六回蹴ったにすぎない。被告丁川が共謀したのは、シルクハット内の暴行行為、及び第二現場におけるDのかけ声以降の暴行行為だけである。
(3) 第二現場における暴行の終わりころ、Eは太郎に対して「生き恥」と称してズボンを大腿部まで引き下げ、暴行の終了を意味する行為をし、Dの「帰るぞ」と言うのを合図に暴行は終了した。そして、第二現場の暴行に加わった者全員が第二現場から六〇ないし七〇メートル歩いて広小路通りまで行き、解散した。
(4) D、Eとの共謀関係の終了
第二現場でDから「蹴ったれ。」と言われてから、D、E及び被告ら三名の間で共謀が成立したが、共犯関係は第二現場で終了している。第一ないし第二現場と第三現場は場所・時間も異にし、被告ら三名は第三現場の暴行について共謀すらない。
前記解散に際し、被告らは、E、Dに対し「ありがとうございました」と礼を言い、暴行は終了した。
D、Eにとって暴行は第二現場で終了していた。Dは、Cからの電話に対し「すこすこ殴ってやった」等と答えていて、暴行は終了した認識でいた。また、Eは、Cに会った際、「お前やらんでもええって」と制止している。
(5) Cとの共謀関係の終了
被告乙野からの応援依頼に基づく暴行は、Cにとって第一現場における暴行で終了している。Cは、その後、Fに会い、太郎が女性に暴行を振るったことを聞かされたことから新たに太郎に対する加害の意思を生じたもので、このことは、CがFに会うまでは、太郎の行方を捜し出そうとする行為をしていないことからも窺える。
(6) 第三現場との関係
被告ら三名は、第二現場の暴行後、シルクハットなどによって帰宅していて、以後、第三現場における暴行には関与しておらず、その事実さえ了知していなかった。
確かに、E、Dは、Cとともに第二現場と場所的に接着している第三現場で、時間的にも接着して暴行しているが、EとDは、被告ら三名が解散した後にCに会い、女友達が太郎から暴行を受けたと思い、Cに加勢して太郎を暴行する旨共謀した。したがって、第三現場での暴行は、第二現場での暴行とは何らの関係もない。
(四) 以上のとおり、被告ら三名の第二現場での暴行と太郎の死亡には因果関係が認められず、また、被告らには第三現場の暴行と強い関連共同性が認められない。
したがって、被告ら三名に対し、第一ないし第三現場までの暴行全てにつき強い関連共同性を認めて、民法七一九条一項の責任の減縮を認めないことは相当でない。本件では、各行為者において加害の程度が著しく異なり、被告らの加害の程度が著しく低いから、被告らには、寄与度により、第二現場における傷害の限度にまで損害賠償責任が減縮されるべきである。
(原告らの主張)
被告らの右主張はいずれも否認する。
(一) 民法七一九条の責任減縮について
本件の共同不法行為は、民法七一九条一項後段の不法行為というより、むしろ前段に該当する。後段は加害者不明の場合に「共同行為者」に適用されることを予定しているが、被告らは前段の「共同ノ不法行為」をした者に該当する。そして、民法七一九条一項前段の共同不法行為には、因果関係の反証が許されないというのが通説であり、F、C、D、Eに対する民事判決(甲第五二号証)も同旨である。石山鑑定の採否は、被告らの責任を左右しない。
被告ら三名の寄与度により責任を限定すべきとの主張は、基本的に共同不法行為という制度を設けた趣旨に反することになり、妥当でない。
被告ら三名と第三現場で暴行をした者との間で、太郎の死亡への寄与度に若干の差異があり得るとしても、その公平を図るには、右被告ら相互間の求償関係で解決すれば良いのであり、原告らを巻き込むべきではない。
また、被告らの暴行が軽微で一般的におよそ死亡の原因となり得ない程度のものであったというのならばともかく、被告ら三名の第二現場での暴行は、第三現場での暴行に匹敵するほど極めて強力かつ執拗なものであったのであり、太郎を死亡に至らせ得る程度のものであった。
したがって、被告ら三名に、民法七一九条一項を適用して太郎の死亡につき連帯責任を負わせても、社会的に不当な実態はない。
(二) 因果関係について
(1) 本件における被害者の死亡との因果関係は、専門家の間でも見解が分かれるほど微妙であり、被告ら三名の責任を否定しなければ正義に反するとは言えない。
(2) 的場医師、石山医師の各鑑定によると、次のとおり、被告らの行為と太郎の死亡との因果関係の不存在を認めることはできない。
① 的場医師は、太郎の脳に広範なくも膜下出血が認められ、その死因はくも膜下出血であって、個々の出血及びその原因となった打撃で死の原因となっていないものはないと判断している。
② 石山医師は、小さな脳幹部損傷があって最終的にすごい外圧が加わったために一気に悪くなった可能性を指摘しているが、右のような小さな脳幹部損傷が被告らの第二現場での暴行により生じた可能性は否定されていないから、被告らの行為と死の因果関係の不存在は認められない。
(三) 強い関連共同性について
(1) 被告ら三名には、C、E、Dの第三現場での暴行と強い関連共同性がある。すなわち、第三現場での暴行は、被告ら三名による第二現場での暴行によって誘発されたのであって、極めて強い連続性を有し、第二現場での暴行が無ければ第三現場での暴行は発生しなかった。暴行が次の暴行を誘発して、しだいにエスカレートすることにより悲惨な結果につながるのが傷害致死事件の特質であり、被告ら三名の責任についても、全体として把握しなければ、適正な評価とならず、被告らの責任減縮の主張は理由がない。
(2) Fは、シルクハットで、いきなり殴りかかってきた太郎に謝罪させようと考え、同人を探すためシルクハットを出て、途中で出会った知人から、太郎と思われる男性が第二現場で暴行を受けていた旨聞き、同所へ向かい、第二現場での暴行を受けて間もない太郎が、名古屋証券会館南側路上を歩いているのを発見し、更に暴行を加えた(甲第五六号証)。
Fは、被告らが暴行を加えていた第二現場に向かっていたのであり、結果的にFが到着したのは第二現場での暴行の終了直後であったが、もし終了直前であったならば、第三現場での四名による暴行と同様、被告ら三名との共同不法行為が成立したのは疑う余地がなく、偶然によるわずかな時間差により、被告ら三名が責任を負ったり免れたりする結果は、不合理である。
(四) 次の理由からも、被告ら三名の責任減縮の主張は認められない。
(1) 傷害事件との比較
本件で、太郎が死亡に至らなかった場合を想定してみると、第一現場での暴行から第三現場での暴行までを総合して傷害の共同不法行為事件としてとらえ、暴行参加者全員が傷害の全責任を負うことになるが、第三現場での暴行後に太郎が死亡した結果、第二現場で暴行を加えた者たちが全責任を免れることになるのは、著しく正義に反する。
(2) 傷害部分の分離の困難性
第三現場での暴行に加わらなかった者たちも、少なくとも傷害部分の共同不法行為責任を負うべきである。しかし、現に死亡した被害者について、傷害による損害だけを区分して明確にすることは困難であり、本件の場合も、第二現場での暴行終了時点で太郎がどの程度の傷害と損害を被っていたか特定することは不可能に近い。
(3) 刑事事件との関係
被告ら三名は、より厳格な認定判断が必要な刑事事件である少年審判で、傷害致死と認定されたにもかかわらず、より緩やかな筈の民事事件で致死の責任が否定されるような結果になるのは妥当でない。
特に、被告丙山及び被告丁川に対する少年審判の決定は、第二現場での暴行のみを認定しながら、右現場における被告らの暴行態様、その際の太郎の状況、解剖結果から、被告ら三名の暴行と太郎の死亡との間の因果関係を認定して、傷害致死罪の成立を認めている。
4 過失相殺
(被告らの主張)
太郎は、ゲームセンターのシルクハット内では、もっぱら加害者的立場にいて、椅子を持って暴れ、被告乙野を椅子で殴る等の暴行を加えている。
このように本件の結果発生には、太郎にも少なからず過失があるので、相当程度の過失相殺が行われるべきである。
(原告らの主張)
被告らの右主張は否認する。
第二現場で、被告ら三名は無抵抗の太郎に一方的に暴行を加えているから、第一現場以前における太郎の行為を理由に過失相殺することは許されない。
第三 証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりである。
第四 当裁判所の判断
一 被告らの不法行為責任(争点1)について
1 太郎に対する加害行為及び死亡の経過
当事者間に争いのない事実、甲第一七号証、第一八、一九号証の各一、二、第二〇ないし二九号証、第三〇号証の一ないし三、第三一、四〇ないし四二号証の各一ないし四、第三四ないし三九号証、第四〇号証の四、第四三ないし四六号証、第四七、四八号証の各一ないし六、第四九号証の一ないし五、第五二、五六号証、乙第一ないし三号証、丙第一号証、丁第一号証、並びに後記各証拠によると、次の事実が認められる。
(一) シルクハット店内
(1) 平成九年一二月三〇日午後一一時二〇分ころ、名古屋市中区錦三丁目所在のゲームセンターであるシルクハット店内で、被告ら三名を含む名古屋市立北中学校卒業生グループ一四人と、太郎の友人で一緒にシルクハットに来ていたA、Bらのとび職である深谷興業グループが喧嘩を始めたことにより、店内は乱闘騒ぎとなった。
忘年会帰りの太郎は、この乱闘騒ぎの中で、深谷興業グループの中心として店内に備え付けてあった椅子を振り回してゲーム機械にぶつけたり、人に投げ付ける等、激しく暴れて、被告乙野の後頭部を後ろからゲーム機の椅子で殴った(甲第二三号証の一)。またAは、被告丁川を椅子で殴った(甲第四九号証の二)。
右のとおり、太郎とAが、シルクハット内で激しく暴れ、被告らに対し優勢に暴行を加えたことから、被告らの北中学校卒業生グループは、不利な状況に追い込まれ、店内の奥に引き下がった。
(2) さらに太郎は、同日午後一一時二六分ころ、シルクハットから出る際、偶然その場に居合わせたFの顔面を殴り付け、二、三分の間、取っ組み合いになった。太郎は、その際、Fの連れの女友達の髪を引っ張り突き飛ばしたりして、傷害を負わせた(甲第二二号証、第三一号証の三)。
(3) 被告乙野が、右乱闘騒ぎの終わりころ、シルクハット店内の奥で、その場に偶然居合わせた、かつて勤めていた解体工事業の会社の一年先輩であるC及びDに、太郎に殴られた旨告げて応援を要請した。C、D、及び同行していたEは、それに応じて、被告乙野に味方して太郎に仕返しのため暴行を加えようと共謀した。
なお、被告ら三名は、その場に居合わせたFが、シルクハット入口で太郎から暴行を受けたので、その後報復しようとして太郎を捜していることを、当時知らなかった。
(二) 第一現場
太郎がシルクハットの店外に出たため、C、D、Eは、太郎の後を追いかけて平成九年一二月三〇日午後一一時三〇分ころ、シルクハット入口から約二八メートル離れた第一現場で太郎を捕まえ、太郎の顔面等を数回殴打するなどの暴行を加え、そのうちの一人が、自転車を持ち上げて、太郎に投げた(甲第四八号証の三、第五六号証)。
太郎は隙を見て逃げたため、C、D、E及び被告ら三名ほか数名が、再び太郎を追いかけた(当事者間に争いがない。)。
(三) 第二現場
平成九年一二月三〇日午後一一時三五分ころ、EとDが、第一現場から約三一九メートル移動した第二現場で、太郎に追いついて同人の顔面、頭部等を多数回殴打し、Dの膝蹴りにより仰向けに倒れた太郎の周りを取り囲んで、太郎の頭部、顔面、胸部、腹部等身体各所を多数回にわたり足蹴したり殴打するなどした(甲第五六号証)。
被告ら三名もそれに続いて太郎の顔面、頭部、腹部等を多数回にわたり足蹴りするなどの暴行を加え、抵抗のできない太郎の頭部や腹部をサッカーボールを蹴るように数回足蹴りした。すなわち、被告乙野は、太郎の腰を一〇回くらい足蹴りし、被告丁川は、太郎の顔面を五、六回、胸の当たりを何回か足蹴りし、被告丙山は、太郎の顔面を一回、脇腹あたりを五、六回足蹴りした(甲第四〇号証の四、第四九号証の三、乙第一号証)。
そして、Eが、生き恥をさらさせると称して倒れたまま無抵抗の状態となった太郎のズボンとパンツを引きおろして陰部を露出させて、E、D、及び被告ら三名は暴行を終えた。
その後、第二現場において暴行に加わった者は、野次馬が増えてきたので、その中に太郎だけを残して、全員が現場を離れて、第二現場から六〇ないし七〇メートル歩いて広小路通りまで行き、解散した。被告ら三名は、Dらと別れる際、「ありがとうございました」と礼の言葉を述べ、シルクハット店内に戻ろうとしたが、同店付近では通報で駆け付けた警察官が警備していたことや、太郎の仲間からの報復を避けるため、北中学校卒業生グループと共に、北区大曽根方面に立ち去った。
(四) 第三現場
(1) Fは、シルクハットで、いきなり殴りかかってきた太郎に謝罪させようと考え、店外へ出た同人を追いかけたが、見つけることができなかったため同店に戻った。その際、Fは、交際していた女性からプレゼントされたセーターの袖が破れていることに気付いた上、交際していた女性が殴られたものと誤解し、憤激して太郎に謝罪させようと考え、再び同人を探しに店を出た。そして、途中で出会った石黒及び新美から、太郎と思われる長髪の男性が、第二現場で数人から暴行を受けていた旨を聞き、同所へ向かった。
Fは、平成九年一二月三〇日午後一一時四〇分ころ、第三現場において、第二現場からズボンやパンツをはき直して一人で自力で歩行中の太郎を認め、同人に対し、その左頬を手拳で一回殴り、押し倒した後、右頬あたりを四、五回手拳で殴って、左肩あたりを四、五回蹴って謝罪を求めた。太郎は土下座して「謝ったがや。金は払ったがや。」などと述べたが、Fは、太郎が誠意がないふてくされた態度をとっていると考えて一層憤激し、更にその顔面や頭部を数回足蹴にし、傍らにあった自転車を持ち上げてその身体目がけて投げ付けたり、その後頭部を地面に叩き付けるなどの激しい暴行を加えた。
(2) 一方、第一現場の後、太郎の姿を見失っていたCは、Dに携帯電話で連絡を取った上、Dから「(太郎を)スコスコにやったぞ」などと聞き、太郎に対し更に暴行を加えようと考えて、E及びDに名古屋証券会館付近まで案内させて行ったところ、第二現場から約四六メートル離れた第三現場でFが太郎を押し倒して暴行を加えているのを発見した。
C、D、Eは、Fの右暴行を見て、太郎に暴行を加えようと共謀し、こもごも太郎の頭部、顔面等を足蹴にしたり踏み付けたり殴打するなどし、Eが傍らにあった自転車を太郎の身体目がけて投げ付け、更に三人でこもごも同人の頭部、顔面等を足蹴にするなどの激しい暴行を加えた。最後に、Fが太郎の髪をもって二〇センチ位持ち上げ勢いよく地面に二、三回打ちつけた。
(3) 太郎は、第三現場で、F、C、D、Eから暴行を受け始めた当初のうちは、両手で顔面を覆うなどして防御の姿勢を取っていたが、途中から手をだらりと地面に下げてしまい、Cが太郎に対し、「おい起きろ。指を折ったるぞ」と声を掛け、実際に指折りをしようとしても反応がなく、暴行の最後には、顔がブワッと腫れて目の上から出血し、鼻血が両方の鼻の穴から大量に出て、口からも血が出て唇の回りが真っ赤で、両頬も腫れて赤くなり、顔面血だらけの状況となって反応もなくなった。そして、第三現場の暴行後、太郎は、Fが呼びかけても、何らの反応をせず、顔面血だらけでいびきのような音をさせながら呼吸していた。
(五) 太郎の死亡
太郎は、第一ないし第三現場での前記各暴行により、頭部等の全身打撲擦過傷、鼻骨骨折等の傷害を負わされ、平成九年一二月三〇日午後一一時五七分現場に到着した救急隊により、同月三一日午前〇時一一分、名古屋市中区三の丸所在の国立名古屋病院に収容されたが、搬送当時、既に、心停止、呼吸停止の状態で、同日午前八時五八分、国立名古屋病院で、脳幹部損傷、くも膜下出血、脳挫傷により死亡が確認された(甲第四三号証)。
2 被告らの民法七〇九条の責任
(一) 原告らは、被告ら三名の第二現場までの暴行により太郎の死亡の結果が生じたもので、被告らの個々的な暴行と太郎の死との間に因果関係が認められ、被告ら三名は民法七〇九条による不法行為責任を負うと主張する。
これに対し、被告らは、太郎の死亡は、第三現場の暴行が原因であり、被告ら三名が第二現場で加えた暴行と太郎の死の結果との間に因果関係は存しないと主張する。
よって検討するに、甲第一七、四三号証、第五三ないし五六号証、丙第二ないし四号証、並びに弁論の全趣旨によると、次のとおり認めることができる。
(二) 太郎の死因
(1) 太郎を司法解剖した的場医師は、平成一〇年一月、太郎の前頭葉・頭頂葉の出血がひどく、前頭葉・頭頂葉のくも膜下出血の原因は前額・鼻部・後頭部など顔より上の部分に対する打撃であり、脳底部のくも膜下出血の原因は下顎部への打撃であり、個々の出血及びその原因となった打撃で、太郎の死亡原因となっていないものはないとして、太郎の死因は頭部及び顔面の多数の打撲による外傷性くも膜下出血であると鑑定している(甲第四三、五五号証、的場鑑定)。
しかし、的場鑑定は、第一現場の暴行程度でもくも膜下出血が生じる可能性があるとしているにすぎず、第一現場の暴行でくも膜下出血が生じたとするものではない。
(2) 一方、Fの刑事第一審裁判で鑑定を行った石山医師は、平成一〇年一二月、次の理由により、太郎の死亡の直接原因は、外傷性脳幹部損傷であると鑑定している(丙第二号証、石山鑑定)。
すなわち、①くも膜下出血が死因となる機序(経過)は、その出血やこれに伴う循環障害によって脳浮腫が発生し、頭蓋内腔の容積が狭くなって内圧を生じ、脳が全体として頭蓋内圧の逃げ道である大後頭孔に向かって押し出され、このために小脳テント部や大後頭孔の辺縁部から脳がはみ出て、脳ヘルニアが形成され、これにより呼吸中枢を司る脳幹部を圧迫して、その機能異常が生じて呼吸が止まり死亡に至るのが一般的である。②太郎の脳のホルマリン標本の検査等を実施した結果、太郎の頭蓋内部には、くも膜下出血の損傷もある。しかし、脳のホルマリン標本中の側頭葉下面には、脳圧迫により脳実質が小脳テントの辺縁部からはみ出す際に、テント辺縁部によって圧迫されることにより生ずる小脳テント切痕や、脳実質が飛び出してくるテント性の脳ヘルニア、大後頭孔の部分に生ずる小脳扁桃部に認められる圧迫円錐などの所見が乏しく、脳ヘルニアの症状はない。したがって、太郎のくも膜下腔のビマン性の出血の程度は、一義的に死因とみなせるほど重篤なものでない。③太郎の症状から推測される脳幹部損傷は、完全な意識消失、自発性呼吸の停止、脳神経反射の消失をもたらす中枢性の破壊が存在していたことを示唆するほど重篤な損傷であり、かかる形態学的所見をもって即死まで起こしうる死因と判定しても、医学的に見て矛盾しない。
(3) 石山医師は、従前の法医学において、くも膜下出血がある場合で肉眼的に他に重篤な損傷が認められないときには、くも膜下出血を死因と判定してきた経緯があるが、実はその背後には別の死因が隠れている場合があるから、脳の組織学的な検査の実施が不可欠であるとして、肉眼的所見に留まらず組織学的検査を実施している上、その検査内容が緻密であり、鑑定主文を導き出す考察過程も論理的で明快であると認められる。そして石山鑑定は、その内容が太郎の臨床的症状とよく符合していて、頭部外表及び顔面の損傷並びに太郎が受けた暴行の内容とも矛盾しないことに照らし、十分首肯できる。
これに対し、的場医師は、くも膜下出血から死の結果が生ずるのは、必ずしも前記(2)①のような一般的な機序の場合だけでなく、くも膜下出血が発生したことによって瞬時に呼吸が止まって死に至ることがある旨説明する。ところで、的場鑑定のとおり、太郎の死因をくも膜下出血とするのであれば、その死亡の発生機序は、一般的な機序とは異なった機序に基づくことになる。しかし、的場医師からは、脳ヘルニアを伴わないくも膜下出血が死の結果をもたらした経緯につき合理的な理由が明らかにされていない(甲第四三、五三号証)。また、的場鑑定は、太郎の脳について肉眼的に所見したものの組織学的検査を実施していない点で、正確性に疑問がある。
(4) 以上によると、太郎の死因は、Fに対する刑事第一審判決(甲第五六号証)が採用した石山鑑定どおり、外傷性脳幹部損傷であると認めるのが相当である。
(三) 被告らの暴行と太郎の死亡との因果関係
(1) 石山鑑定によると、①太郎の死因である脳幹部損傷は、完全な意識消失、自発性呼吸の停止、脳神経反射の消失のような中枢性の破壊が存在していたことを示唆しており、即死までも起こしうる死因と判定しても医学的に見て矛盾しない程度に重篤である。②太郎の死因である脳幹部損傷は、特定した一回の頭部や顔面への外力作用によって一気に生じた多発性の脳内挫傷により即死状態に陥ったものと推定した方が無理がないが、当初、脳震盪を起こす程度の軽度の脳幹部損傷が生じて、その後に加えられた強い外力によって一気に悪化した可能性も否定されない。③脳幹部損傷は、脳に対し回転性の加速度を与える外力でも、直線性の加速度を与える外力によっても生じうるが、頭部や顔面を踏み付けるような静的外力の場合は、頭蓋骨の粉砕骨折を伴うような場合でなければ生じない。④回転性の加速度を与える外力による損傷か、直線性の加速度を与える外力による損傷か見分けることは困難である。
(2) そうすると、太郎は、第一現場において暴行を受けた後は走って逃走しているし、第二現場で暴行を受けた後もズボンやパンツをはき直して自力で歩行している。また、第三現場においても、太郎は、Fからの謝罪の要求に対し、自ら正座して「謝っとるがや」などと述べ、C、D、Eから暴行を受けた当初も、両手で顔面を覆うなど防御の姿勢を取っていたから、その時点までは、死因となる脳幹部損傷を生じていた可能性は否定される。
したがって、右各時点で、太郎に、死因となる脳幹部損傷が生じていた可能性は否定される。
(四) 以上によると、太郎の死因は、第三現場におけるF、C、D、Eから暴行を受けた際に生じた外傷性脳幹部損傷であると認められるから、被告ら三名が第二現場まで共謀して行った暴行と、外傷性脳幹部損傷を原因とする太郎死亡の結果の間に、因果関係の存在を認めることはできない。
したがって、被告ら三名の暴行と太郎死亡との間に直接の因果関係があるとする、原告らの民法七〇九条に基づく請求は理由がない。
3 被告らの主観的共同による民法七一九条の責任
(一) 進んで、民法七一九条による共同不法行為責任につき検討する。
一般に、不法行為の加害者は、被害者に対して、自己の不法行為に基づいて生じた損害についてのみ賠償責任を負うのが原則であることからすると、被害者救済と複数加害者間の公平な損害の負担の観点から、民法七一九条一項前段が適用される場合のうち、複数加害者間に主観的共同がある場合は因果関係が擬制されるが、同条一項前段が適用される場合のうち、複数加害者間に客観的共同があるに止まる場合、あるいは同条一項後段が適用される場合は、因果関係が推定されるに過ぎないと解すべきである。
これを本件についてみるに、被告ら三名が、第二現場まで、C、D、Eと、太郎を含む深谷興業グループの者に対する暴行を共謀していた事実は、当事者間に争いがない。
(二) 被告ら三名の共謀等の成立範囲
原告らは、C、D、Eによる第三現場の暴行との関係でも被告ら三名には共謀が認められると主張し、これに対し、被告らは、第二現場の暴行の終了により共謀関係が解消されていると主張するので、検討する。
前示のとおり、①第二現場の暴行の最後に、Eがしめくくりとして太郎の陰部を露出させて、いわゆる生き恥をさらさせるという仲間内の儀式を行っている。②第二現場における暴行が終わった後、右暴行に加わった者は、野次馬の中に太郎だけを残して、その全員が現場を離れている。③被告ら三名はDらと別れる際、「ありがとうございました」と礼の言葉を言っている。④Cは、第二現場に居なかったが、第一現場で自ら太郎に対して暴行を加えているほか、太郎が第一現場から逃げ出した際、被告ら三名に対し、「行ったれ、行ったれ」と言うにとどまり、第二現場には赴かず、第一現場における暴行でひとまず満足していた。Cは、その後、Dの「スコスコにやってやった」という言葉や、Fの第三現場での暴行を目撃して、太郎に対する更なる暴行を考えるようになった。⑤D、Eも第二現場の暴行により後輩の仕返しとしての暴行を終えたが、第三現場でのFの暴行を目撃するうちに、更に太郎に暴行を加えようという考えになり、第三現場で暴行を加えた。以上のとおり認められる。
これらの状況からすると、被告ら三名の太郎に対する共同暴行の意思は、第二現場における暴行で終了したものであり、被告ら三名にとって、C、D、Eがその後も更に太郎に対し暴行を加えることを予見することは極めて困難であったと認められる。
したがって、被告ら三名とC、D、Eらとの共謀関係は、第二現場における暴行が終了した時点で解消したと認めるのが相当である。
(三) 原告らは、被告乙野は、第一現場でC、D、Eに加勢を頼んだ張本人であるから、右の者らとの間で明らかに共謀関係が成立していて、主観的共同あるいは民法七一九条二項の教唆による共同不法行為責任が成立すると主張する。
しかし、前示のとおり、被告ら三名の太郎に対する共同暴行の意思は、第二現場における暴行で終了したものであり、他方、被告ら三名は、当時、Fが、シルクハット入口で受けた暴行の報復をしようとして、太郎を捜していた事実を知らなかった。
そうすると、被告乙野にとって、C、D、Eがその後も更に太郎に対し暴行を加えることを予見するのは極めて困難であったと認められ、被告乙野に、第三現場におけるC、D、Eとの共謀、主観的共同、あるいは教唆による共同不法行為の成立を認めることはできない。
(四) 以上によると、太郎の死因となった第三現場における暴行は、Fが、被告ら三名とは無関係に、太郎から理由なく受けた暴行に対する報復として開始し、それに、被告ら三名との共謀を解消したC、D、Eらが、新たに太郎に対する共同暴行の意思を生じて、Fに加勢したものと認めることができる。したがって、原告らが主張するように、第三現場における暴行が第二現場における暴行に誘発されたもので、各加害者間に主観的共同があり、右各現場の暴行が強い連続性、強い関連共同性を有すると認めることはできないから、被告ら三名による第二現場までの暴行と太郎死亡との間に、因果関係を擬制することは相当でない。
そうすると、原告らの被告ら三名に対する共謀、教唆等の主観的共同による民法七一九条一項前段、二項に基づく請求は、いずれも理由がない。
4 被告らの客観的共同による民法七一九条の責任
前示のとおり、太郎に対する被告ら三名を含む多人数による暴行は、わずか二〇分程度の間に敢行されたもので、場所を移動しながら、順次暴行を加えたことなど時間的、場所的な接着性が認められること、第二現場までの暴行態様と第三現場での暴行態様は、手拳による頭部等の殴打、足蹴りが主なもので類似していることからすると、その程度に差異はあるが、第一現場から第三現場までの一連の暴行に、客観的な関連共同性を認めることができる。
したがって、第二現場の暴行までしか共謀関係が認められない被告ら三名についても、客観的関連共同行為が認められる以上、民法七一九条一項前段、後段により、太郎の死亡との間に因果関係が推定され、太郎死亡につき各自連帯して損害賠償責任を負わなければならない。
二 損害(争点2)について
1 逸失利益
甲第一号証、第三号証の一、二、第三三号証によると、太郎は死亡当時、二二歳であり、名古屋市熱田区内の深谷興業でとび職として働き、平成九年一〇月から一二月まで直近三か月間の月収は合計八一万〇八七五円(同年一〇月分二八万六〇〇〇円、同年一一月分二六万円、同年一二月分二六万四八七五円)であった事実が認められる。
右基礎収入に基づき、新ホフマン方式(係数二三・二三一)に基づき中間利息を控除して就労可能期間の終期六七歳までの得べかりし収入を算定した上、生活費五〇パーセントを控除して算定すると、太郎の逸失利益は、原告ら主張どおり、三七六七万四八七四円となる。
2 医療費
甲第四、三三号証によると、太郎は、前示傷害の治療のため国立名古屋病院で治療を受け、治療費として八万一九八〇円を出捐した事実が認められる。
3 葬儀費用
甲第五号証の一ないし五、第六、七、九号証の各一、二、第八、一〇、一一号証の各一ないし三、第一二ないし一六、三三号証によると、太郎の葬儀のため、葬儀一式の費用一二三万円、宅送費一六万五九〇〇円のほか、納骨費用、通夜・葬式の飲食費等を含めて合計三四五万六六五〇円を超える支出をした事実が認められるところ、前記諸事情を考慮すると、そのうち一五〇万円を太郎の葬儀費用の損害として認めるのが相当である。
4 太郎本人の慰藉料
甲第二号証の一、二、第二六、三二、三三、五〇、五一号証によると、太郎は、平成六年三月、推薦入学した滋賀県立長浜商工高等学校電気機械科を卒業した後、将来のシンガーソングライターになる夢を実現させるべく名古屋に出て、三菱自動車の整備関係の仕事に就いて生活を始め、同八年にとび職として深谷興業に就職して、仕事にも真面目に従事していたところ、被告らの容赦のない暴行により、二二歳の若さで死亡するに至った事実が認められる。
したがって、被告らの本件不法行為により太郎の被った精神的苦痛は甚大であることから、太郎の被った精神的苦痛に対する慰藉料としては二〇〇〇万円が相当である。
5 原告両名固有の慰藉料
甲第二号証の一、二、第二六、三二、三三、五〇、五一号証、並びに弁論の全趣旨によると、前示のとおり、非情で容赦のない被告ら三名を含む加害者らの暴行によって、長男の太郎が無残な死をとげたことにより、その親である原告らの被った精神的苦痛は極めて甚大である事実が認められる。
他方、乙第四、五号証、丙第五ないし七号証、丁第二号証、並びに弁論の全趣旨によると、被告ら三名は、太郎に対する傷害致死の刑事責任を認めて、いずれも少年院で矯正教育を受け、現在、被告ら三名及びその親が、原告らに対し真摯に謝罪している事実、並びに丙山が、御仏前として一〇万円を支払っている事実が認められる。
これら一切の事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料としては、各原告につきそれぞれ五〇〇万円が相当である。
6 太郎の親である原告らが、太郎を法定相続分各二分の一の割合で共同相続し、同人の権利義務一切を承継した事実は当事者間に争いがない。
そうすると、本件不法行為による各原告の損害は、右1ないし5の合計である各三四六二万八四二七円になる。
三 寄与度減殺(争点3)について
1 被告らは、共同不法行為においても、加害者が判明し、かつ、加害者の加害程度が判明する場合、各加害者は自らの行為に関与した限度でのみ責任を負うべきであり、本件においては、被告らの行為と太郎死亡の結果との間には因果関係が認められないから、被告ら三名は、寄与度により第二現場までにおける傷害の限度までしか損害賠償責任を負わない旨抗弁する。
よって検討するに、民法七一九条一項は、共同不法行為の被害者を救済するため、各不法行為者間に共謀等の主観的共同関係が認められる場合は、因果関係を擬制し、加害者である共同不法行為者に対し連帯して損害賠償責任を認めて、共同不法行為者による一部免責、責任減縮の抗弁を認める余地はないと解される。これに対し、各不法行為者間に客観的関連共同行為が認められるに過ぎない場合は、不法行為の過失責任の原則、及び被害者保護の見地から、被害者救済と複数加害者間の公平な損害負担の目的を調和させる必要があるので、民法七一九条一項は因果関係を推定するにとどめ、共同不法行為者において、自己の不法行為と発生した結果との間に直接の因果関係が存在しないことを立証し得たならば、客観的関連共同行為により生じた損害全部に対する賠償責任から、寄与度に応じて一部を免責し、責任を減縮することができると解するのが相当である。
2 これを本件についてみるに、被告ら三名は、前示のとおり、E、D、Cらとの第二現場までの各暴行について主観的共同関係が認められるので、それまでの各暴行について共同不法行為者としての損害賠償責任を免れない。
しかし、被告ら三名には、前示のとおり、第三現場でのE、D、Cらの暴行について共謀等の主観的共同関係、強い関連共同性は認められない。そして、太郎は、第三現場で、Fからの謝罪要求に対し自ら正座して応答し、Cら三人から暴行を受けた当初、両手で防御の姿勢を取っていた時点までは、死因となる脳幹部損傷が生じていた可能性は否定されるから、被告らの第二現場までの各暴行と太郎死亡との間に因果関係は認められない。
そうすると、被告ら三名の共同不法行為責任について、第二現場までの被告らが関与した暴行と、外傷性脳幹部損傷を原因とする太郎死亡の結果発生との間に、直接の因果関係は存在しないとの事実が立証されたといえる。
3 ところで、前示のとおり、第二現場における被告ら三名の暴行は、その程度が太郎の頭部や顔面への多数の殴打及び足蹴りを含む重大なものであって、太郎に多大な身体的損傷を与えていて、その後の第三現場におけるF、C、D、Eによる加害行為に対し防戦することを困難にさせたと認められるから、太郎の死亡の結果発生に、かなり寄与していると認められる。
そうすると、被告ら三名は、太郎に対し、直接の原因となる暴行行為を行っていないものの、第二現場までの自らが関与した暴行について、客観的な関連共同がある第三現場における暴行により発生した太郎死亡という重大な結果に対し、被害者救済の観点から損害賠償責任を負わなければならないが、強い関連共同性はないから、寄与度に応じ責任の減縮を求めることができる。
したがって、前記諸事情を、被害者の救済と、複数加害者間の公平な損害負担の各目的の観点から総合勘案すると、被告ら三名については、太郎死亡との直接の因果関係の不存在が立証できているので、太郎死亡の結果に対する寄与度を考慮して、本件共同不法行為により生じた損害額のうち二割を減殺するのが相当である。
4 原告らは、より厳格な認定判断が必要とされる少年審判で、被告ら三名につき傷害致死の非行事実が認定されたにもかかわらず、より緩やかな筈の民事事件で致死との因果関係が否定されるような結果になるのは妥当でないと主張する。しかし、被告ら三名の少年審判の決定時には、石山鑑定は実施されていなかったのであり、当裁判所が、石山鑑定を検討して、因果関係の存否につき判断することは許されるから、原告らの右主張は理由がない。その他、寄与度減殺を否定する原告らの主張は、いずれも採用できない。
四 過失相殺(争点4)について
1 被告らは、シルクハットでの太郎の暴行などから太郎にも過失があったとして、過失相殺の抗弁をする。これに対し、原告らは、シルクハットでの太郎の行動を勘酌すべきではないと主張する。
よって検討するに、太郎の死亡は、前示のとおり、シルクハットにおける、被告ら三名を含むグループと、太郎を含むグループの喧嘩闘争に端を発し、その後の被告らを含む者らと太郎との間の一連の喧嘩闘争の中で起きたものである。したがって、被告ら三名の共同不法行為責任が生ずる行為を第一ないし第三現場の行為を全体として捉える以上、右不法行為の端緒となったシルクハットでの太郎の被告ら加害者に対する行為を、過失相殺するに当たり斟酌するのが相当である。
2 第二現場までの暴行と太郎の過失
太郎は、前示のとおり、体格が良く、被告ら三名を含む加害者より年長で、深谷興業グループの中心として、シルクハット内で、椅子を振り回し、被告乙野に暴行を加え(乙第二号証)、シルクハットの従業員が、本件事件に関する新聞報道を見たとき人を殺したのは太郎であると思う程、シルクハット内では一番激しく喧嘩をしていて、むしろ加害者的な地位にあったと認められる(乙第三号証)。また、太郎が、理由もなくFに対し喧嘩を仕掛けて暴行を加えたり、Fの連れの女性に暴行して傷害を負わせたことからも、太郎がシルクハット内で、理不尽な暴行をしていたと認めることができる。
3 右の点を総合考慮すると、原告らと被告ら三名との関係において、前記寄与度減殺後の損害額から、太郎の過失相殺として一割を損害額から控除するのが相当である。
五 以上によると、原告らの各損害は、前記二6の損害合計三四六二万八四二七円につき、寄与度を考慮して各二割を減殺し、さらに過失相殺としてその一割を控除した結果、二四九三万二四六七円となる。
計算式
3462万8427円×(1−0.2)×(1−0.1)
=2493万2467円
六 弁護士費用
原告らが、本件損害賠償請求権を行使するため、原告ら訴訟代理人弁護士に、本訴の提起と訴訟追行を委任したことは、当裁判所に顕著であり、本件事案の内容、認容額、その他諸事情を考慮すると、被告ら三名の本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は各二四九万円と認める。
したがって、原告らの各損害は合計二七四二万二四六七円になる。
七 結論
よって、原告らの被告らに対する本訴各請求は、右各二七四二万二四六七円、及びこれに対する本件不法行為により太郎が死亡した平成九年一二月三一日から支払済みまで民法所定の年五部の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官水谷正俊 裁判官佐藤真弘 裁判官今泉愛)
別紙現場図<省略>